共感できる物語はどうやって作られている? 『ジュラシックワールド』の登場人物から考える

 

今年2017年の7月か8月頃に地上波で放送していて見たジュラシックワールドの話。気になったことがあったからまとめた。

 

 

  

ジュラシックワールド』の紹介

 

まずはジュラシックワールドの概要を紹介。

 

ジュラシックワールド』とは

 

ジュラシックワールド』は2015年公開の映画。いわずと知れた『ジュラシックパーク』シリーズ。ものすごく雑に紹介すると『ジュラシックパーク』のように、科学技術によってよみがえった恐竜が、逃げ出して大変なことになる映画。

ジュラシックパーク』の中に出てくるジュラシックパークという場所がテーマパークのことだったように『ジュラシックワールド』もまた恐竜を見ることができるテーマパークとして運営されている。今回の『ジュラシックワールド』には「遺伝子操作で作り上げた新種の恐竜」が登場する。物語前半でこの恐竜が突如檻の中から姿を消してしまい、飼育員が調査に向かう。だが、恐竜は柵を超えて逃げたふりをして檻の中に潜んでおり飼育員を殺して客の残るテーマパークの中に逃げてしまうのだった・・・。

 

こちらは予告編のトレーラー。 

映画『ジュラシック・ワールド』第1弾日本版予告編

 

ジュラシックワールド』の登場人物紹介

ジュラシックワールド』の登場人物を簡単に紹介。

 

主要登場人物たち

 

ジュラシックワールド』には、主要な登場人物が4人いる。だいたいこの4人を中心に物語が進行しているため、主要登場人物ということにした。

 

  • 主人公の青年。テーマパーク、ジュラシックワールドで小型恐竜「ヴェロキラプトル」の調教師をしているワイルドな感じの男性。
  • テーマパーク、ジュラシックワールドの科学者と運用管理者をしている女性科学者。白衣にボブヘアーが特徴的なクールな印象の女性。
  • 高校生の青年(兄弟の兄)。女性科学者の甥っ子。弟とともにジュラシックワールドに観光に来ていた。
  • 小学生の男の子(兄弟の弟)。女性科学者の甥っ子。高校生の弟。恐竜の種類や特徴に詳しい気弱で物知りな少年。

 

トレーラー映像の最初に映っているのが兄弟で、1分20秒~くらいに出てくるのが女性科学者と主人公の青年。

 

サブ登場人物たち

 

ジュラシックワールド』には研究者やジュラシックワールドの施設職員、恐竜の討伐部隊などとしてさまざまな人物が登場した。そんな人物も少し挙げてみる。

 

  • ジュラシックワールドの設立者兼、所有者のインド人。途中、逃げた恐竜捕獲のためにヘリコプターを自ら操縦した。
  • 中国人と思われる研究者。遺伝子操作した恐竜を作りだした(たぶん)張本人。
  • 主人公と一緒にラプトルを調教している黒人の調教師。
  • 最初に恐竜と戦う部隊の日本人隊長。

 

ほかにもサブキャラや重要キャラが居るが、必要最低限挙げるので、これくらいで。

 

考察 -登場人物の役割-

 

「登場人物の配役」の意味とは?

 『ジュラシックワールド』の概要と登場人物を一通り挙げたところで、見て感じたことについて書いてみる。

 

ジュラシックワールド』の主要登場人物たちの特徴

 

ジュラシックワールド』見ていて気になったのは上に挙げたように、①20代後半くらいの青年、②同じくらいか少し歳上の女性③高校生くらいの青年④その弟である小学生くらいの男の子。というように、主要人物の4人の特徴と年齢がばらけている点。何故このような配役になっているのか?

ジュラシックワールド』の本当のメインの主人公はおそらく、調教師の青年である。主人公が一人しかいない物語は多いが、この映画の場合は4人が主人公といってもいいレベルで、調教師の青年も活躍しているが、他の3人にもかなり焦点が当てられていた。物語終盤では女性科学者と兄弟も共に行動したおかげで、恐竜を対処する手段が思いつき、騒動が収まる。女性科学者も兄弟も重要な役割を果たしている。

「女性科学者も兄弟も、活躍して、役割を果たした」ことで、男と女の登場人物、子どもの登場人物にも均等に活躍の機会が与えられていることにもなる。彼らに役割があるということが一体何をもたらすのだろうか?

彼らにも平等に機会があることで、物語を見ている視聴者側にも変化が現れるといえると思う。年齢や性別・境遇の近い人物が、映画の登場人物として出て来たほうが、視聴者は登場人物に感情移入しやすくなり、より物語を楽しめるようになるということをどこかできいたことがある。

 

新世紀エヴァンゲリオン』の話

 

アニメ新世紀エヴァンゲリオン では、意図的に様々な年齢層の人物を出すことで、近い年齢や立場の登場人物に重ね合わせて物語を見れるように作られているという。そのため『エヴァンゲリオン』の作中には少年少女であるシンジやアスカたちのほかに、大人の女性であるミサトや、父親の年齢であるゲンドウなど年齢の違う登場人物が出てくる。

 『ジュラシックワールド』もまた、感情移入したり登場人物に重ね合わせて見やすくしたりするために主人公格の人物が4人用意されているのだろう。

(※『エヴァンゲリオン』についての話はインタビュー記事か何かで読んだのだが出典が見つけられなかったのであまり信用しないで下さい。)

 

「人種の多様性」

 メインキャラクターの4人の話に続いてサブキャラの特徴についても少し考える。

ジュラシックワールド』のサブ登場人物たちの人種

 

ジュラシックワールド』のサブ登場人物に挙げた人物の特徴を見てみると、少し挙げただけでも様々な人種の登場人物がいることがわかる。ほとんど意図的に特徴が分けられているといってもいいほどだ。

ハリウッドの実写映画の場合、特に様々な人種の人が出てくることが多いように感じられる。ハリウッド映画の制作現場がアメリカという国であることから、人種の多様性が意識され、配役にもそれが表れているのだろうと推測できる。(もちろんすべての作品に差別なくさまざまな人種が出てくるわけではない。)

物語の中に、いろんな人種の人が出てくることに関しても、前述の、「自分に近い年齢の登場人物に感情移入することで、物語を楽しむことが出来る」ということが共通している。物語の中にアメリカ人や日本人やインド人など様々な人が物語の一員として加わることで、見る人たちも物語に共感できるようになる。配役が、見る人たちにも居場所を与えているといえる。

人種の多様性は近年は特に意識されてきているといえる。ただし、必ずしもハリウッド映画やその他の海外映画に黒人やアジア人などの有色人種、その他の人物が満遍なく出てくるわけではない。差別意識があるわけではないが配役が偏る、ということもあるが、実際に差別問題がまだまだあるということは触れておいたほうがよいだろう。

 

「ホワイトウォッシング」の話① ー実写版『Ghost in the Shell』ー

 

最近では、2017年に公開された『攻殻機動隊』のハリウッド版実写映画『Ghost in the shell』で「ホワイトウォッシング」が問題視され、話題にもなっていた。「ホワイトウォッシング」というのは、本来白人以外の登場人物を白人が演じることを指す。

Ghost in the shell』では本来日本人女性である主人公の草薙素子役にあたる配役に白人女性である、スカーレットヨハンソンが起用されている。しかも、『Ghost in the shell』のスカーレットヨハンソンの役名は「草薙素子」という名前ですらなく、「Mira」になっていた。白人女性を起用することで原作のイメージからかけ離れたというだけでない。これまで述べてきた理論でいくと、本来日本人女性の役であった位置に白人が起用されることは、キャラクターのイメージを損うだけではなく、見る側の人たちの居場所やアイデンティティまで奪うことになってしまうのである。

日本に住んでいると「ホワイトウォッシング」や人種差別の問題を意識することは少ないのかもしれない。実際「草薙素子が白人女性になったことにそれほど疑問は感じなかった」という人は多かったからだ。しかし、役柄が奪われると見る人々の居場所まで奪われてしまうと考えると、大きな問題であるということが見えてくるかもしれない。

スカーレット・ヨハンソンのキャスティング自体は草薙素子のイメージに近く、良い配役だとは思ったが、それとこれとは別の話なので置いておく。)

 

ホワイトウォッシングの話② ーファッション雑誌『VOGUE』の炎上と「文化の盗用」問題ー

 

Ghost in the shell』の「ホワイトウォッシング」が話題になった時期と、そう変わらない時期に「ファッション雑誌『VOGUE』の白人女性のモデル、カーリー・クロスが日本の着物風の衣装を着た写真が炎上というニュースがあったのでそのことにも触れる。

 

関係するニュース記事がこちら。

www.huffingtonpost.jp

 

写真を見てみるとどこか大陸の要素とごちゃまぜになった「ゲイシャ」風の格好をしていることに違和感は感じたが、何が「文化を盗用している」ことになるのか、すぐにはわからなかった。これに関しても『Ghost in the shell』での意見同様、日本人からはどこが盗用なのか?どういった点が問題になるのか?という意見があったと記事中に書かれていた。

皮肉なことに、この写真が掲載された2017年3月のテーマがダイバーシティ(多様性)」で、色んな人種のモデルを登場させていたにも関わらず、白人女性が日本風の格好をしていたというので非難を受ける理由もわかる気がする。

 

終りに

 

最近では人種に加えてLGBTQなどこれまでマイノリティとされてきた人々や、病気を持つ人々の話題やニュースが増えてきたように思う。(マイノリティという言い方には少し適切でなく失礼かもしれないが。)

同時に映画やゲームなど物語の中にもそれらの人々が出てくることも増えてきているような気がする。(最近、海外のインディゲームなどをやってみたら同性愛のキャラクターがごく普通に登場してくることが何度かあったから)。肌の色や性別、宗教や思想に関わらずいろんな人々が物語の中に登場することによって「ここにいてもよい」という安心感や肯定の意を与えられるのだと思う。

また、もうひとつ最近の気づいたことがある。iOSの絵文字では肌の色が選べるようになっているが、最近、「キス」や「家族」を表す絵文字に男女以外に男性同士や女性同士の組み合わせの顔文字が増えていた。他にもパエリアの絵文字が伝統料理の食材に修正されているなど、文化や思想などを尊重する考え方が、絵文字にまで表れてきている。

 

―――

 

ここまで、「登場人物の配役」というのは、物語を面白く見れるようにするだけでなく、居場所を与えるという役割も果たしているということを書いてきました。居場所というのは、男であるか、女であるか、大人であるか子どもだけでなく、人種やセクシャリティ、思想などが違うどんな人にとっても必要なものではないのでしょうか。という締めで終わらせておきます。